それでも私は腐敗と闘う



イングリッド・ベタンクール『それでも私は腐敗と闘う』(草思社)

 購入していたのだが、本が増えていくにつれどこにいったからわからなくなり、先日の整理で出てきたので、ようやく読めた。コロンビアの女性政治家で、2002年のコロンビアの大統領選に出馬した彼女は現在、コロンビアの左翼ゲリラFARCによって拉致され、現在に至る。現在も生存が気遣われているのだが、そんな彼女が何故彼女が政治家になり、いかに汚職と権力と闘ってきたのかを、彼女自身の回想録としてまとめている。

 彼女自身は恵まれた環境(父は教育相&ミスコロンビアで後、上院議員になる母を持つ)で育ち、父の政治的左遷、母の影響を受け、彼女自身がフランスの政治学院に入学し、政治の道を志すようになる。彼女の意志はコロンビアから政治腐敗を一掃し、麻薬カルテルとの絆を断ち切り、貧困層の権利を拡大させ、安心した国づくりをすることだった。ところが、コロンビアは汚職が横行し、下院・上院の議員とも何かしらの形で麻薬カルテル多国籍企業のロビイングによって汚職まみれになっている。殊更、ペタンクール氏が標的として挙げたのは当時コロンビア大統領となったサンペール氏。麻薬カルテル(カリ・カルテル)とのつながりがあった彼は、腐敗の可能性を指摘されると、敵や証人を暗殺するという暴挙に出る。そんな中、四面楚歌ともいえる状況で彼女は大統領の不正を暴露し、コロンビアを変えていこうとするのだが……。

 国内には麻薬カルテルを含む犯罪組織や強力なゲリラ組織であるFARCなどの反政府勢力が跋扈するコロンビア。そんな破滅的な状況で、汚職を追放し、安定させることに力を注ごうとした1人の女性の姿を描く。彼女自身2児の母であり、暗殺予告を受けたり、子供を殺すなどの脅しを受け、常に恐怖に怯えながらも、自分の信念を貫いてきた。本を読んでいて、あまりのひどい現実が御伽噺かと思えるぐらい、救いようのない、八方塞の状況。政治家のほとんどが自己保身に走り、賄賂で肥え太る状況。犯罪組織(反対すれば命を失う)や多国籍企業ロビイストとして、単に利益を代表する状況になっていた。

 政治家が腐敗しているという状況は国を運営する主体が、国益に反して私益に向かうということになるため、国民のためになるプロジェクトが骨抜きにされ、粗悪なものになる可能性が高いことを意味している。実際彼女が取り上げた汚職の中にも政府軍の武器調達を密林ではふさわしくないイスラエル製の武器にするなど(このため、政府軍兵士は強力な武器を持つFARCなどの反政府ゲリラや麻薬カルテルとの戦いでは苦戦を強いられる)唖然とする状況である。ほぼ国内が無法地帯と化しているコロンビアで、誠実さをもって接したペタンクール氏は現在も解放されていない。というのは、彼女の人気を恐れたほかの政治家がまったく動かないという状況なのだ。

 この本から学べることは、巨大な権力に打ち勝つには国民の集合的な力を得るしかないということかもしれない。一人ひとりは弱くとも、国民の目線で何をしたいのかということを明確に持った候補者に入れることが、選挙権を持つ我々の責務であるということ。自分の一票が国を変えることはないということで、投票を回避することだけはやめてほしい。それは僕ら自身にも当てはまることだから。

 追記として、ベタンクールさんは2008年7月にコロンビア軍の救出作戦により、無事解放される。誘拐されてほぼ6年、彼女の復活によってコロンビアに再び新たな風が吹き込むことを望んでやまない。