終わりの街の終わり



ケヴィン・ブロックマイヤー『終わりの街の終わり』(ランダムハウス講談社)

ネビュラ賞ノミネートということで、たまには今月の新刊を読まないとばちがあたりそうだったので、早々に読了。読了感は村上春樹是枝裕和+キース・ロバーツ+ジョージ・ソウンダースみたいな小説。物語は大きく分けて二部で構成されていて、<まばたき>と呼ばれる致死性のウィルスによって滅亡した人間社会で、コカコーラの調査で南極大陸に来て難を逃れた、唯一の生き残りローラの苦難の旅と回想と死者たちが集う<名もなき街>での死者たちの囁きと彼らの回想によって作られている。そういった意味では、小さなパズルピース(個々人の物語)と接着部分となる死者の街の描写、ローラの南極大陸冒険で構成された小説であった。

読了感は「空気感覚」としかいいようがない。たぶん数年後には内容を忘れてしまっているタイプの小説なのだが、なんともいえない印象がある。ケリー・リンクジュディ・バドニッツほどわざとらしくなく、ソウンダースの作風に似ているといえば、わかりやすいかもしれない。物語のスプロール性という意味では、まさにSFという準拠枠を利用したEmbedな構成の小説であって、日本人でいえばまさに村上春樹のような感覚で読める小説でもある。そしてキーとなるのは、死者の街のことでもある。物語のラストの解釈はいくつか可能であり、死者の街のカタルシスは、山尾悠子の「夢の棲む町」のカタルシスに似た要素があり、ローラにまつわる解釈も十分可能である。アニメ的には「灰羽連盟」のイメージがこの小説には強い。つまり、自分の名前を知らなければ巣立っていけないわけだ。

もしかすると死者たちはある関係があり、その関係性に規定されているのかもしれない、と思うのはコニー・ウィリスの『航路』(ヴィレッジブックス)のせいかもしれない。本書のラストの章では、盲目の男に語らせることにより、あえて第三者感覚によって締めることで、世界の終わりを静謐に収束させているのではないか、と感じる。この系のファンタジーでは、琴音『愛をめぐる奇妙な告白のためのフーガ』(幻冬舎)がある(が、ややお薦めはできない)。小川隆先生が好きなタイプの本だと思ったのは内緒だ(笑)。他の人がどう読んだのかは知ってみたいタイプの本ではあるが、お勧めしたいというかというとそうでもない系の本。