AD2015隔離都市ロンリネス・ガーディアン

桜庭一樹『AD2015隔離都市ロンリネス・ガーディアン』(ファミ通文庫)

いまやラノベ作家から天上りして直木賞受賞作家に転じた桜庭一樹のデビュー作。ブックオフで地道に探せば出てくる可能性もあるのだが、これがなかなかみつからない。地方都市のブックオフにいけば、ある可能性が高いかも。2000年第一回ファミ通エンターテイメント大賞小説部門佳作受賞作に修正・加筆した本である。魔界都市ハンター的な舞台設定をうまく利用しながら、ミステリ風味に仕立て上げたSF。『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』(富士見ミステリー文庫)が生理的に受け付けなかったので、それ以後読んでいなかったのだが、それは食わず嫌いだと反省してデビュー作に戻ることにした。この方向性でSFをもっと書いてくれればいいなぁと思った人も多いはずなのだが、あとがきにもあるように「色々と挑戦したい」という彼女の方向性がうまく結実した、と考えればあとがきどおり、作家として目標通り大成功したという感はある。

物語は魔界都市(打ち消し線が描けないorz...)新宿。ある研究所からウィルスが漏えいし、新宿は政府によって完全に隔離された地になってしまう。このウィルスは感染した成人を確実に死へと至らしめ、幼少期に感染した子供たちは5歳以下の子供たちを除いて、成人すれば20代で確実に死ぬというものだった。アウトブレイクが起こったときに5歳以下の子供たちは免疫をもったものの、親と死別してしまったために「ピティフル・チルドレン」と呼ばれる存在になっていた。主人公一樹(桜庭さんの分身ね)はアウトブレイクを免れた一人。彼は成人して自ら志願して、ウィルスに汚染された新宿に単身乗り込むことに。そしてそこで出会ったのは、昔の幼馴染たちだったのだが…。

アウトブレイクの封じ込め(音速に近いエアダクトによる封じ込め)というアイディアによって完全に新宿を隔離するというアイディアは面白い。そこに大人たちが死別してしまうというウィルスを導入し、完全に隔離された空間とその代替空間としてVR新宿を作成し、ふたつの世界を行き来するあたりは、柾悟郎の『ヴィーナス・シティ』(ハヤカワ文庫JA)からのアイディアだろう。このあたりの話は菅浩江『プレシャス・ライアー』(光文社文庫)やニール・スティーブンスン『スノウ・クラッシュ』(ハヤカワ文庫SF)とも比較でき、ライトノベルという体裁でいきいきとしたVR空間の描写に成功しているとぼくは感じた。そういった意味では、巻末の中村うさぎの解説にあるように「目新しいものはない」のだが、むしろウィルスに冒された一樹の同級生と彼、そしてピティフル・チルドレンとの人間模様を、ミステリ風味に描いたことこそが、本書の面白さだと僕は感じた。

つまりSF的ガジェットとしては既存のものを使って陳腐化しているものの、そこにミステリ風味のヒューマンドラマがプラスαされていることにより、読者を引き付けることに成功しているのではないかと感じた。ミステリ読みの人はたぶん「あーそうだろうなぁ」と思う展開かもしれないのだが、僕には割と衝撃的なラストになっていたので、大変面白く読めたというのが実際。ということで、本書を読んで面白かったので桜庭一樹は徐々に読み進めていこうと思う。ブックオフ等で見つけたら購入をお勧めできる一冊。500円ぐらいまでなら買いかな。