ストラヴァガンザ 仮面の都



メアリ・ホフマン『ストラヴァガンザ 仮面の都』(小学館)

先月末に読み終えて感想を書かなかったのだが、もう少し読まれてもいいパラレルワールド・ファンタジーだと思ったので、紹介しておく。本の存在自体はやまねこ倶楽部のページから見て知っていたのだが、シリーズものなのでスルーしていた。3冊合わせるとかなり重厚な物語なのは3冊合わせてのページ数(1500ページ以上)を見てもわかる。読み始めてみたら児童ものとは思えない出来。というのは、架空のタリアの風俗が生き生きと描かれており、決して手を抜いてない濃密なストーリー展開に圧倒された。

話的にはパラレルワールドもので、こちらの世界はローマを建国したのがロムルスではなくて殺されたレムスによってなされた世界で、イタリアではなくてタリアと名付けられた世界。そして場所は16世紀の水の都ベレッツアを舞台に、若年性のガンで苦しむ主人公ルシアンはロンドン在住。ところがある日、偶然父親が持ってきてくれた古い手帳の力で、タリアの世界に時を越え、空間を越え、旅立つことになる。そこでは、仮面をつけた女領主が支配する水の都だった。そして美しき水の都ベレッツアではその支配権をめぐり、さまざまな陰謀が渦巻く中で、ルシアンは時の旅人としてベレッツアの世界と21世紀ロンドンを交互に行き来することになる。

この手の並行世界ファンタジーというとアリソン・アトリー『時の旅人』(岩波書店)などを思い出すが、ホフマンの作品はさらにそれにひとひねりしていて、蓋然性としてあり得た「一つの時の中にある並行世界」を描いている。そこに権力の座を狙う悪者たちの陰謀が加わり、主人公のルシアンもまた、ベレッツアの運命を左右するような役割としていろいろなフォローアップができるようになる。暗殺者が女領主の命を狙うなか、主人公ルシアンは二つの世界のはざまに立ちながらも、ベレッツアの世界にコミットしていってしまう。そしてあっと驚く展開と突然訪れる選択の瞬間。時の旅人にとってはいつか選ばなければならない時があり、それはある種の残酷さを感じる。しかしながらそのようにせざるを得ない状況こそが、大人への成長過程なのかもしれない、と読者に提示するあたりがこの小説の魅力なのだと感じた。2巻め、3巻めも早く読もうと思う。