黒水村と交錯都市



黒史郎『黒水村』『交錯都市』(一迅社J文庫)

黒史郎体験。評判の高いデビュー作はまだ読んでいないのだが、何となく本屋で購入して読んだら表紙絵からは想像できないホラー小説だった。『黒水村』→『交錯都市』という時系列で連続しているため、登場人物が一部かぶっていることに注意。僕は『交錯都市』→『黒水村』と読んでしまったため、過去へのエピソードへの遡行になった。小説はクトゥルーの要素を詰めて、ゲーム「サイレン」のような土着ネタが『黒水村』で使われている。『黒水村』は人里離れた寒村に合宿に行かされた8人の高校生と教員が、不気味な雰囲気に包まれた穢土の山中の村で怪奇体験をするという流れ。『交錯都市』はその設定を利用して、七つの地獄が登場し、東京に恐ろしい災厄が襲いかかる話だ。

これら二冊の良かった点は1)ラノベでホラーというテーマは珍しく、2)『黒水村』は閉鎖空間をきっちり利用した正当的ホラーであったこと3)『交錯都市』は『黒水村』の設定をきちんと継承した形で、オープンエンドになりがちな都市という設定をきちんと閉空間に落としている。4)狂言回しの存在が明確(『黒水村』)そして何といっても呪によって生まれたアカモロの存在である。これはゲーム「サイレン」的ではあるが、黄泉戸喫というネタをきちんと押さえているのがよい。ある種、永遠の命をもたらす神々の食糧のような存在だと思ったら、呪によって育っているため、ある種呪と悪意によって生かされるというあたりにおぞましさを感じた。そして『交錯都市』ではさらにその存在が強化されており、実におぞましい。このシリーズはヴィジュアルの面でも面白く、映画・アニメにしやすい設定だと思う。両作品とも容赦ないグロテスク表現とその中にあるほのぼの感が双対性をなしている。また、徹底して人間は無力である、ということを思い知らされ、絶望することになる。

ラノベという形態だったためか、文字容量の問題ですべてが制約付き条件で描かれていることが、物語にもともとある設定の魅力さを殺しているのが残念。ラノベという形態上、キャラの性格付けが前面に出てしまったためか、物語の雰囲気にそぐわないキャラクターがいることがマイナスに働いてしまった。キャラクターのせいで物語の勢いが殺がれてしまった感があり、ドライブの失速感を感じる。これはこの系統のホラー小説(ドライブ感ではなくて、じっくりと後で怖くなる系の怖さ、怪談系)では致命的で、せっかく良いと思った物語の設定部分(地獄の具現化)が単なるキャラ萌えになっている気がしてならない。なので続編にあたる『交錯都市』はイマイチだった。むしろ徹底して地獄が容赦なく天災のごとく襲ってくる感じでやってほしかった。その点では『黒水村』は閉鎖空間を利用した土着ホラーでよくできていたように思える。