ノパルガース




ジャック・ヴァンス『ノパルガース』(ハヤカワ文庫SF)

久々の伊藤典夫訳によるヴァンスの翻訳作品。発表されたのが50年前以上の作品のため、物語中で描写されているテクノロジーは陳腐化している部分はあれど、本書のアイディアは面白い。ノパルにアースマットしに来たお!という話なんだけど、西岸良平の初期SF作品にありそうな感じのノスタルジックな雰囲気。SFとしては、身も蓋もない驚愕の展開に苦笑しながらページをめくる。ヴァンスだけあって、異国的な響きは抜群でノパルガースという造語も不思議な感じ。ヴァンスが得意とする異世界描写はこの作品ではあまりない(その点では他の作品をお勧めしておく)ので残念なのだが、久々にヴァンスの作品を読めたのでよしとする。

ある日突然、アブダクションされた地球人の科学者ポール。その拉致先の惑星は、トープチュという宇宙人によって支配されており、ノパルという精神寄生生命体との戦いを繰り広げていた。その戦いもほぼ終わり、トープチュは精神寄生体ノパルを分離する機械でノパルを分離し、せん滅を試みていた。トープチュによれば、ノパルはノパルガース(地球)が源であり、ポールにそのせん滅を強制依頼してきたのだった。はたしてポールはノパルを期限内でせん滅することができるのか?という話。

内容はまったく異なるのだが、SF映画ヒドゥンとかボディースナッチャー、アウターリミッツとかそういうのを思い出すB級SF作品。実際人間は共生によって生きているけど、まさかこういう話だとは思わなかった。面白いのはノパルが外れたあとの変化で、ノパルが外れた人たちは同族とはみなされず、偏見の目で見られるようになるという点。このあたりの差別観はネタになる(おれのこと嫌いなのはノパルがついていないからだからね?!)のでおもろかった。当時のアメリカの様相も考えると(公民権運動とか)、何か社会的な背景も浮かびあがってくるのかもしれない。というのは、この作品は一筋縄ではいかない展開がのちに待ち受けていて(ただし、その後の展開はページ数の問題で淡々としている)ちょっともったいない。でもこれが実はちょっとした対立軸になるので、この話はアメリカの当時の対立(公民権にコミットするかしないかなど)にも関連しているのかも。それはシルヴァーバーグの『ガラスの塔』なんかでも入っていたけど、SFという表現形態ほど世相をえぐりだせるのではないかと僕は感じているので、違った読み方ができるというのはすごく楽しい。

久々にすぐに読めてしまうSFなので、お勧め。重厚長大な作品に食傷気味な人にお勧めしておきます。