文学刑事サーズデイ・ネクスト1 ジェイン・エアを探せ!




ジャスパー・フォード『文学刑事サーズデイ・ネクスト1 ジェイン・エアを探せ!』(ソニーマガジンズ)

本の整理で出てきたので、読んでみた。…うはっ、これは傑作でした。J・P・ブレイロック的なテイストで、物語自体はかなり混沌とした様相の「改変世界SF」ともいえる。なんでもありの混沌な状況をうまく収束させ、思ってもよらないような小さなエピソードが見事にジグゾーパズルのピースのようにつながり、壮大な物語が完成する。そういった意味でも実に完成度の高い小説であり、この小説が日本語で紹介されたことを素直に喜ぶ(のだが、現在品切れ中なので非常に残念すぎる)。現在邦訳は本書を合わせて3シリーズ出ているが、4シリーズ目はたぶん出ない気がするのが残念。

本書の魅力はなんといっても悪役と本の世界と現実との一致、時間警察の話にある。これらの要素が何とも絡み合って、エントロピーを増大する力と秩序を保とうとする力が双方ともにひしめき合う。その過程がある種の化学反応的で面白いのだ。秩序側に立つ主人公サーズデイの対抗馬は、奇妙な能力を持つアシュロン・ヘイディーズ(冥府の川・ハデス)。彼はある種、ブレイロックのスチームパンク作品に出てくるイグナチウス・ナルボンド(『ホムンクルス』(ハヤカワ文庫FT))のような不老不死の奇妙な怪人だったりする。彼の悪行はとどまることを知らず、世界第三位の悪人として悪名高い状況になる。そんな彼がディケンズの生原稿を盗み出し、ひどいことをする。アシュロンの悪行に対して、われらがヒロイン、リテラックスのスペックオブスのネットワーク文学局SO−27所属の刑事、サーズデイ・ネクストがアシュロンの悪行を阻止すべく頑張る話でもある。

サーズデイの伯父マイクロフト博士(ちょっと響きがマイクロソフトっぽいですけど)が、文学の門という発明を行い、作品世界に入ることができる装置を発明してから、とんでもない状況になる。そこにイギリスを牛耳るゴライアス社(独占企業にこれほど最適な名前はない!)の社員ジャック・シット(最低なやつ)がロシアとの間のクリミア半島の領有権を巡る戦いのためにとある提案をしたり。いろいろなことが交錯し、盗まれたジェイン・エアの原稿の世界をめぐってはちゃめちゃ(笑)に世界が展開されていく。運悪く僕はジェイン・エアを読んでいなかったので、あわててあらすじを調べたのだが実に納得(笑)。ジャスパー・フォードの博学ぶりが素晴らしいです。こんな感じで本当に文学が好きで、読書の好きな人にぜひ読んでもらいたい傑作。書きたいことがたくさんあるんだけど、面白すぎて、脳内でいろいろなハイパーリンクをつくりたくなるぐらいのまさにスラップスティックでキッチュで、ハイパーでパワフルな小説でした。超お勧め。二巻目・三巻目も読まなきゃ!