遥かなる光



エリザベス・A・リン『遥かなる光』(ハヤカワ文庫SF)


<アラン史略>シリーズで有名なリンの処女長編SF。ジェンダーを意識しながらも、内容は娯楽色の強いスペオペ風味に仕上がっている。そういう意味では、ディレイニー『ノヴァ』(ハヤカワ文庫SF)と読み比べると面白い小説だと感じた。<アラン史略>はj『冬の狼』が面白かったので、彼女の作品は極力読んでおきたいなぁと思っていた。性差を抜きにした形で、ガンにかかってしまった才能あふれる主人公の画家ジムソン。彼は〈ニュー・テレイン〉の地にとどまる限り、百歳までの生は保証されている。しかし、ひとたび〈ハイプ〉を通って宇宙へと飛びたてば、自分の命が一年に縮まってしまう。それでもジムソンは未知の世界への情熱を抑えることができず、自分の命を引き換えにしても遥かなる光を求めて、宇宙へと旅立つ。

普通に面白かったです。ディレイニーの『ノヴァ』風味なんだけど、もうすこし人間臭い感じ。ジェンダーの壁がないという意味で、男同士のカップルになったり、ヘテロなカップルになったりと、そのあたりのフリーさはユニーク。主人公のジムソンがガンに侵されている中で、敢えて<ハイプ>と呼ばれる超空間を通過して冒険に出る姿は美しい。この小説自体が何となく不思議な読了感があるのは、いったい何なのか考えてみたのだが、主人公ジムソンの目から観察された世界フィルターの描写のせいかもしれない。画家の目から世界を俯瞰するのだが、その裏には14年間行方を捜していたラッセル船長への想いにもあるだろうか。

あえてあんまり内容を語りたくはない小説なのだが、あくまでもジェンダーの差を感じさせないような描写が多いので、自然と物語が入ってきた感じかも。そういう意味では今復刊しても十分読める(野口訳は問題ない。むしろ雰囲気にぴったり)小説なので、残念ではある。名作アラン史略も読めない状況なので、なんらかのきっかけで再評価されてほしい作家のひとりだ。