ミルクから逃げろ!



マーティン・ミラー『ミルクから逃げろ!』(青山出版社)

日本語翻訳があまり出ていないマーティン・ミラーの処女作。パルプノワールが好きな人にお勧めできるおバカ小説。テイスト的には戸梶圭太、ジョー・ランズデールな感じなのだが、基本的にはチープ。いろいろな意味でアーヴィン・ウェルシュ的でもあり、実にダメな展開が繰り広げられるのだが、スピード感があるのでもう最高。あんまり話題にならなかったみたいだけど、ウェルシュよりはハードコアではなくて、ゆるゆるな感じ。個々の登場人物のエピソードに何か伏線があるのか?と考えながら読むも、その気配もないし…。でもこのゆるゆる感がこの小説の魅力だったりするわけで、毒はそんなに強くはない。

主人公スターヴェーションはコミックオタクで、牛乳アレルギーの26歳。スピード売りの基本ダメ男。そして彼は、原因不明のアレルギーに苦しめられていた。友人のステイシーに勧められて5日間断食をして、食べ物をチェックした結果、どうも牛乳が彼のアレルギーの原因であるらしい。彼はそれからこの方法を原因不明のアレルギーで苦しむ人たちに伝えたことが、全英牛乳販売促進委員会の目に留まり、暗殺者が送られる羽目に。その暗殺者はブラジル出身の女暗殺者ジェーン。そして彼はなぜか謎の中国人に追われ、びくびくしながら日々を過ごすことになるのだが…。

あらすじはこんな感じ。レズビアンで万引きの常習犯のカップルとか、その万引き先の店の店長とその妻の話とか、とある雑誌に挟まっていたものから出てきたある宝物を探そうとする教授と、不思議な霊能力を持つ黒人看護婦の話とか、コミックを売ろうとしている女性とか、格ゲーにはまる中国人ガードマンとか、カンフーの先生でもとビルマ兵だった女性とか、こんな奇妙な組み合わせの人たちがドタバタ劇を繰り広げて、物語に色を添えていく。基本的にはスキゾな構造の物語で、小さなエピソードが脈絡なくつながっていて、ある種小さなドラマ(映画でいえばジャームッシュの「コーヒー・アンド・シガレッツ」みたいな感じかな)が連続して、つながっていく感じ。時系列は一応ごっちゃにはならないものの、そういう流れにしますか!と思えるつなげ方があってちょっと面白い。基本何かをコレクターしている人にはわかる部分もあるし、共感できるところもある。なので大きな流れはないけど、物語自体映画的なカットバックがたくさんあって面白い小説です。

ショックなのはこの本、帯がちゃちいので破れやすいのが難点。僕の本の帯も破れてしまってショックなのであります!結構この帯にある宣伝文がよいので、帯つき本を入手することをお勧めしておく。