夜は一緒に散歩しよ



黒史郎『夜は一緒に散歩しよ』(メディアファクトリー文庫)

第一回『幽』怪談文学賞受賞作で、黒史郎氏のデビュー作。過去彼の作品は一迅社J文庫の2冊を読んだけど、ラノベなのに容赦ない殺戮やクトゥルーネタでビビらされた記憶が新しい。本書はなんとも形容できない気持ち悪さと後味の悪さが残る一冊で、いわゆる情念や幽霊をモチーフにした「サイレントヒル」みたいな感じの話。中盤から後半にかけての怖さは見事で、締めは賛否は分かれるところだが、ジョン・ソール的にしたらそれはそれでぞっとした。

主人公は中堅ホラー作家横田。イラストレーターだった妻を亡くし、一人娘の千秋と住んでいた。妻の死後千秋は奇妙な絵、それは現実世界に見えない異形の姿だった。ある日を境に千秋は青い顔の女ばかりを書くようになる。千秋は母親とは似つかないその女を「ママ」と呼び、皆の制止を無視して絵を描き続ける。ますますエスカレートする千秋の奇妙な行動は、ついに現実を侵食し、死者を出すことになるが…。

この手の話はゲーム「サイレントヒル」(特に4)で多少抵抗力がついていたので、怖さが少し薄れたのだが、それでも全般的にいやーな話で読んでいて気色が悪くなったシーンも多い。殊更、男の担当編集者の描写は、彼の口臭が匂ってきそうなぬめりとした文章だったこともある。千秋だけには見えていてほかの人には見えていないという状況を「絵」という形で示すあたりは逆に「千秋のフィルター」がかかっているだけに、おぞましく感じられる。その後徐々にあの世のものが現世を侵食していくのが進むにつれて、さまざまな謎(妻のエンゲージリングの消失、青い女と妻の関係など)が明らかにされ、ラストは夜は一緒に散歩している例の岸辺のシーンでの恐怖になる。これはちょっと「サイレントヒル」だったので残念なのだが、それまでの盛り上げはきちんと青い女について(かなりすごい設定だけど)記されるので納得。全般的にいやな描写については天才的で、視覚化できる文章力のある文体なので、たちが悪い。ホラーでこういう風な文章を書かれると、エナジードレイン度が高くて、脳内にそのままおぞましいシーンが残るため(特に青い女関連の物品など)何らかの形で吐き出しておかないとまずいと判断したので、脳内まとめとして記しておく。たぶんに映像系に黒史郎氏が詳しいからかもしれないが…。ということで、お勧め。