ナヴァロンの要塞



アレステア・マクリーン『ナヴァロンの要塞』(ハヤカワ文庫NV)

トルコとの国境にある要衝エーゲ海の小島ナヴァロンにナチスドイツにより、建設された難攻不落の要塞ナヴァロンにある巨砲を破壊し、ケロス島に留まる連合軍の兵士1200名を救出するための、特殊ミッションが発令された。登山家として名の知られたマロリー大尉をリーダーに個性的な5人のプロフェッショナルが、不可能と思われるナヴァロンの崖から登頂し、巨砲を破壊する!戦争小説の中でも、息を呑む展開に仕上がった小説だ。

プロフェッショナルたちが挑む難攻不落への挑戦を描いた小説であり、1200名の命を救うために不可能と思われるミッションに挑む5人のタフな男たちの戦いを緊迫感あふれる筆致で描いていく。まさに精神力との戦いというシーンがたくさん出てきて、プロフェッショナルではあるが人間である男たちにつぎつぎと襲いかかる試練。あるものは自分との戦いに負け、怪我により脱落するもの、あるものは冷酷に任務を遂行するため、容赦なく「機械」として兵士を斃していくもの、ともかく狭いナヴァロン島という場所を舞台に決して飽きさせない小説になっている。暴風雨に翻弄され、疲れきる男たちの姿、なまなましい銃撃戦、そして敵をも騙す迫真の演技など、個性的なキャラクターに引き込まれるようなシーンをたくさん盛り込んでいる。特に冷酷なアンドレアの暗い過去は、ナチスドイツの冷酷さを物語るエピソードであり、そのことがナチスドイツを倒す理由づけを強く与えてくれる。戦争は人間味にあふれる人々を「無機質な個」に変えてしまう不気味さを持つ。それはマロリーととあるドイツ軍将校との会話にある、平時だったら…という独白に込められているように思えた。

戦争という悲惨な状況の中において、兵士としてどう役割を果たすか、そしてどのようにして生き延びるのか、この小説はその極限を描いた力溢れた小説である。ちなみに僕の所有しているのは初版なので、表紙が依光光さん。