「希望」という名の船にのって





森下一仁『「希望」という名の船にのって』(ゴブリン書房)

もし自分に小学生ぐらいの子供がいたら、優しく読んであげたいジュヴナイルSF。シベリアの永久凍土の下に閉じ込められていた病原体が活動を開始し、動植物関係なくに感染。この病原体により、汚染された区域が広がり、人類は滅亡の危機にさらされていた。そんな中、「希望」と名付けられた船に乗って、果てしない旅に出た人たちがいた。ヒロシはそこに生まれ育った「船生まれ」の子供。同じような子供たちと一緒に暮らしながら、船の中で成長していく。そんなある日のこと、好意を寄せているヨーコが見たことのない「生き物」を見せてくれるという。この「生き物」との出会いは、ヒロシの冒険の始まりだった…。

ヒロシの立場になって、素直に読んでいたら、途中で「!」となる。「この世界はこんな風になっている」という驚きを感じ、SFを読んでいてよかったなーとおもう。ヒロシの心の動き、「希望」号の中の秘密とそれをとりまく世界の謎、そしてその打開策が論理的にうまく結合し、見事な解決をみせる。その間にいくつもの困難があれど、船の乗組員の人たちはまるで宇宙船ビーグル号の専門家集団のように、悪戦苦闘しながらもなんとか解決策を見つけていく。しかしながら、自分たちの食糧問題が生じてきたとき、ついにある種の決断がなされることになる。

正統的な少年・少女向けのSFで、童心に帰って読むことができる。こういうわくわく感を感じさせてくれる小説はなかなかお目にかかれないのだが、本書はどこかで自分の中の「少年性」が呼び覚ましてくれる。きたむらさとしさんのイラストも素敵。一般書店ではあんまり見かけない(僕は楽天で買いましたが)ので、興味のある人は大手の本屋あるいはネット書店で購入をお勧めします。