ロマンシングサガ ミンストレルソング 皇帝の華


妹尾ゆふ子ロマンシングサガ ミンストレルソング 皇帝の華』(スクウェア・エニックス

うさぎ屋さんのロマンシングサガストーリーのノベライズ本。今回本の整理で出てきたので一気に読了した。大変面白かった。ノベライズという形態なので敬遠する人も多いかもしれないけど、吟遊詩人のバラードの如く流れる、風のような物語だった。脳裏にロマサガの音楽が流れながら、ゲーム世界と小説世界のはざまでにやにやしながら読む。吟遊詩人の活躍を生き生きと描くことができる作家、妹尾ゆふ子さんにロマサガのノベライズを依頼したスクウェアエニックスはよい仕事をしたと素直に思う。ちなみに、ゲーム自体は昔にやりこんだ(で、音楽がものすごく好きだった)わけだが、物語は完全に失念。興味のある人はぜひこのページを見てほしい。ロマンシングサガの世界がまとめられている。

皇帝レリアの姿は、人気シリーズ<翼の帰る処>の隠居願望の強いヤエトに通じるところがあり、読めてよかった。母からうとまれ、いつでも殺されておかしくない状況のもとで過ごす主人公レリア。彼は図書館で法務官ヘルマンと出会い、彼の叱咤激励をうけ、本から世界を学ぶ。こうして処世術を身につけていく。彼にはのちに、北バファルで貴族となる護衛、バルハル族のローザ(ロマサガ1のアルベルトは彼女の血を受け継ぐ)に護られ、国内の不穏な動きを解決していく。処世術に長けた皇帝、忠実(愛を伴う)な護衛との関係が、需要と供給の一致という形で美しく描かれる。

ロマサガの世界の設定を咀嚼しながら、キャラの造形をし、見事な解釈を加えた吟遊の物語だ。吟遊詩人の語りから始まり、間奏という形で挿入され、レリア4世とローザ、レリアをとりまく護衛の華たちの姿が生き生きと詠まれる。そして最後には美しく、過去から現在へと「歌」を通じて引き継がれる。ノベライズという制約条件の中で、すべての条件を見事に使い、オリジナルの物語に昇華させた物語である。ローザの設定、レリア4世の女好きなどの設定は、きちんと受け継がれる。特にローザのレリア4世に対する「愛」の形までもが、北バファルのクリスタルレイク周辺の領地を望むことで、あらわされ、理由づけもなされているのも素晴らしい。歴史はすぐれた物語によってなされ、それが継承され、私たちの中で神話になっていくということを強く感じさせる物語だった。安定してお勧めできる一冊です。ゲーム原作の別ノベライズの本も買ったはずなのだが出てこないので、なければ購入しないとな…。