異次元創世記 赤竜の書

妹尾ゆふ子『異次元創世記 赤竜の書』(角川スニーカー文庫

私たちの周りには、さまざまなモノが存在し、言葉によって名づけられている。例えば、ル=グィンのゲド戦記では、真の名前を知られてしまうと、真の名を知るものによって従属させられてしまう。それくらい、言葉によって名指しされ、規定されるということは実はものすごいポテンシャルを秘めた行為だといえよう。本書の世界観には、シニフィエシニフィアンの関係をうまく利用しながら、言葉に秘められた力を描いた作品といえる。

物語は魔物によって父親を殺害された聖なる墓森の番人の娘が、助けを求めたときに、伝説の民であるイーファルと出会い、危機を脱する。その一方で、竜使いの末裔ジェンは古の言葉を祖父から学び、竜使いとしての素養を高めていた。そんなある日、彼の村に「剣」を盗んだ剣士が現れ、彼は剣を盗んだ罪で餓死の刑に処せされる。ところが巡使の刑罰に反発したジェンと親友のウルバンは彼に食事を与えることに。そんなある日、ウルバンとは別行動をとっていたジェンは、魔物に遭遇してしまう…。九死に一生を得た彼は麗しきイーファルと墓森人の娘に遭遇。そして彼の運命は定まっていく。

物語の<秩序>が崩れてしまうのは、本を動かすことによって行われる。そこで竜使いの能力を持つジェンが意思によって言葉を獲得し、世界を再構成していく感覚が味わえるのが素晴らしい。日常が変化し、物語がジェンによって紡がれていく、その感覚が本書後半の魅力だといえる。その意味で、丁寧に構築された物語のコア要素が生かされていくのだなぁというわくわく感がある。のちに知ったのだがEXノベルズで出ていた『真世の王』の前日譚らしいので、早速読んでみたいと思う。