暗い鏡の中に

ヘレン・マクロイ『暗い鏡の中に』(ハヤカワ文庫HM)

ハヤカワ文庫HMの中では入手困難本として知られているミステリなのだが、先日西五反田ブックオフで古めのミステリが大量に出ていてその際に拾った一冊。そういう自慢はさておき、お会いする方から「マクロイは面白いよ」といわれていたので、これも何かの縁だと思い、今回読んでみた。

ゴチックホラーで包んだミステリなのだが、長らく絶版になっている理由もよくわかった。というのは、ミステリとしての解決はオープンエンドだからだ。ラストで明かされる謎の収束があくまでも類推であるため、不満に感じる人もいるかもしれない。そういった意味では、本格ミステリ的に読むと肩透かしを食らう。しかしながらミステリとしては不十分だといえ、当時の社会世相を踏まえた閉塞感が素晴らしい。フォスティナという人物をここまで徹底して不幸な女に仕上げるところにむしろ感心する。その理由づけが徹底して行われるため、読者の期待を裏切らない方向で物語は展開することになる。

あらすじはこうだ。一人の不幸な女教師フォスティナの周囲で起こる奇怪な現象。様々な人がもうひとりのフォスティナを見た、という。その噂が学内に広がり、突如彼女は解雇される。そしてさらに彼女に襲いかかる悲劇と一つの殺人事件。その謎を解くため、若き精神科医ウィリング博士が謎に挑む!というもの。

ネタばれはしないのでアレだが、徹底してドッペルゲンガーにこだわったマクロイに感心した。もう一人のフォスティナの謎には「!」と思う読者も多いはずだ。ある種それは予想できないだろう、というトリックだったので、やられた(ギャフン!)というのが読み終えてからのこの本への印象。ミステリものではない僕ですが、むしろこの本はゴチックロマンスとして読むと結構いけるということがわかり、当時の全寮制の女学校の雰囲気、ムーランルージュ的なデカタンスな雰囲気などがすばらしくて、そちらの方に関心をもって読んだのが正直なところ。

ということで、僕はあまりいいミステリの読み手ではないのかなぁと思った一冊。