全てを呪う詩 屍竜戦記2



片理誠『全てを呪う詩 屍竜戦記2』(徳間Edge)

前作が屍竜使い自身の<力>を持つことに対する内的葛藤に焦点をあてていたのに対し、今回は汎教と真教という二大宗教団体の対立を軸に物語が展開しており、謎ときと謀略要素の強い異世界ファンタジー作品になっている。その謀略要素の部分は過去のスパイ小説並に目まぐるしく変化していくので、誰が敵で誰がターゲットなのかなかなか複雑なのだが、このあたりの様相は政治学におけるパワーゲームになるので、読みといていくのは面白い。大きなゲームは汎教と真教という二大プレイヤーによる、ナフル王国での勢力争いで各種戦略(内乱や暗殺など)があり、利得は勢力範囲の拡大ということになる。この部分はシュミレーションゲーム的なのだが、汎教と真教の駒となるプレイヤーたち自身がそれぞれ情報から分断され、プレイヤーの代理人として利得を最大化するように戦略および行動をとらないといけない、というあたりの駆け引きの部分に面白さがある。

つまりマクロ的な世界設定がしっかりとできているため、読者が違和感なくこの世界に没入することができる、というのが本書の最大の売りであり、違和感なくTRPGの世界に移植できる感覚がある。僕はレトロゲー世代(PC98)なのでなんとなく感じる部分ではあるのだが、本作品はマクロ的な設定を重視しつつもミクロの部分での人間ドラマや駆け引きが主人公フレイの視点からしっかりと描かれているので、フレイの目から通じたマクロゲームの過程を解き明かしていくミステリ的な部分を楽しめる。こういう作品はなかなか昨今のファンタジーには見られないのだが、実にロジカルに組み立てられた小説であるといえる。

ヴァ・シ・ド教(真教)の司祭で屍竜使いの主人公フレイが、宗教対立&龍の襲来により荒れ果てたナフル王国を真教側へと引き込むために、地方貴族のギンギルスタン子爵を嗾けて、王国に混乱をもたらしていく。そこには恋人で屍竜使いのジュリルラーナ司祭も関わっており、大勢の仲間とともに任務を遂行しようとする、というのが流れ。

マクロ面だけでは面白くないのでミクロ面についても記しておく。ミクロ面では、呪いの扱いが実にユニーク。呪うという行為は術者の生命を代償にして人の命を奪うというもので、その呪という行為がのちに大きなキーファクターとして終盤に効いてくるわけだが、これはもうやられた!としかいいようがない。このラストは見事で、まさに刮目してよめ!である。それと記号の謎については、やられたーというのが事実なのだが、誰が一番得をするのかは自然と読んでいるうちにわかっていくので納得。文中に出てくる記号がある内容を示していくわけだが、その点については、素晴らしいの一言。それがきちんとジュリルラーナの話と絡んでいるので、おっと思う。他にも汎教側の強敵や狡猾な貴族、素朴な農民など多彩なキャラクターたちがフレイの周りを取り囲み、見事にミクロ的な位相空間を構築することに成功している。

最後のボス竜との戦いは前作同様まさに怒涛のごとくに終了するので(脳内変換では日本ファルコムのゲーム的)お薦め。一押しの作品です。