コミケ襲撃

川上亮『コミケ襲撃』(TOブックス)

公式サイトはこちら>http://www.tobooks.jp/comiket/

敬愛する川上亮の長編最新作。しかしこの人は多彩だとつくづく思うのだが、器用すぎてジャンル枠に収まらない作品ばかり書いている気がする。去年読んだ中で一番おもしろかったのは秋口ぎぐる名義の『ひと夏の経験値』(富士見ドラゴンブック)で、TRPGヲタクな高校生がひと夏の間にたまたまTRPGをやりにきた美少女にほのかな恋心を抱く切ない青春もの(自分の高校時代を思い出してしまったorz)で、思春期の高校生男子の男臭さをTRPGの世界でやってしまった傑作なのだが、今回はなんとダメな連中がコミケを襲撃して現金強奪するという内容。ちょっとヤバいぜこれみたいな内容が満載で、相変わらず川上亮やってくれます。物語はオムニバス形式で進行し、登場人物たちそれぞれの視点で描かれるので、映画的カットバック手法で構成されているので、面白い。

川上亮の魅力はなんといっても地の文の面白さにある。特に変なヲタを書かせると妙に粘着的で生理的にぞっとした人も多いはず。今回は登場人物の一人で、主人公たちの仲間ブンロクがそれで、ヒロイン(?)になる同人誌書きの美少女三奈の熱狂的なファンで、ある種見事な役回りを演じる。彼の描写は徹底して悲惨(笑)で、特に彼と接した女性全員がすべて嫌悪感を感じた描写には大爆笑。ヒロインの三奈の言い回しも想像すると実はちょっと萌える(途中無理をして、言い方をかえたときの不自然さには笑える)のではないと思う。ところどころやばいネタが満載で、まさか三奈にまつわる秘密がとんでもない陰謀に包まれているとは!でもあり得ないとはいいきれないあたりが面白かった。

基本的にはダメな連中がダメにしくじり、ラストでは川上亮らしく可愛く締める。これは『探偵は嘘つきのはじまり』(ファミ通文庫)でもあったような、周囲を巻き込んでいく形の物語展開をして収束していくので、その類型であるといえばそう。ただ今回は個性的なキャラクターをうまく組み合わせながらも、唖然とするコミケ襲撃を作り上げたという意味でも、映像化してほしい小説ではある。詳しく感想を書きたくないのは、書いてしまうと面白さがそがれるタイプの小説のため。特にやばいネタの部分については大爆笑なので、興味ある人はご一読あれ。