青い世界の怪物



マレイ・ラインスター『青い世界の怪物』(ハヤカワ文庫SF)

巷では海洋SFとして、有川浩、<深海のYrr>、藤崎慎吾が流行っている今日この頃ですが、敢えて逆行して1961年に書かれた47年前の海底SFを読むことにする。古典も読んでおかないとね!翻訳者は野田昌宏で、例の大元帥節もなくさくさく読める。分量的にも丁度いいので、海底SFとしてはさくりとまとめられたよいSFだった。ラインスターの作品は中軸となるSF的アイディアが面白い上に、使われてるガジェットが割と当時の技術レベルから考えられる最高の技術を用いた最適な対応を取るものが多くて、今まで読んできたSFホラーもの(ギズモとか)でははずれがない感がある。山本弘がラインスターのことをよくほめているけど、ラインスターの作品にはSF的なネタがかなり詰められていて、あっこういう視点もあるんだとはっとさせられることも多い。さらにラインスターの作品は映画化をどこかで念頭に入れているのではないか?と思われる節もあり、ヴィジュアル化して見てみたくなる。

フィリピンで電気屋を営む主人公の若き技師、テリー・ホルトはある日謎の若い美女から水中聴音機が必要だという。その謎を明らかにしないまま、テリーの言い値以上の金額を支払う女性。好奇心に駆られたテリーは、彼女らが乗船するエスペランザ号へと向かいそのまま彼女たちの船にそのまま載せられてしまう。半分騙された形になりつつも、彼女らがフィリピン沿海で行おうとしている調査に興味を持ったらテリーはそのまま彼女らのプロジェクトに参加するのだが…。

いくつかの怪現象が組み合わさり、物語はスリルとサスペンスに満ちて進行していく。たとえば巨大な泡に飲み込まれた帆船、何かの力によって操作された大量の魚群。夜ごとに正確にルソン海溝へと落とされる謎の火の玉。実はこれらの事象が相互に組み合わさり、ラストまでミステリ的な雰囲気で語られていく。当時の科学技術をもとに、想定される科学技術から深海に潜む謎を解き明かしていく手法は、さすがラインスターといったところか。実は表題は「深淵の生き物」なので、少しYrrとかぶる(笑)。実際岩淵氏の表紙絵をみると、巨大な烏賊が帆船を襲っている状況が描かれていて、のちのちなぜ巨大イカになったのかがわかる仕組みになっている。個人的には設定がなかなかおもしろかったので、47年前のSFとはいえ楽しめたことは付記しておく。ハヤカワ文庫SF通し番号7番という初期の本のため、後ろにはH・SFのリストが載せられているのが泣ける(僕の本は初版だ)。

普通に面白かったのでお勧めしておく。ソナーの開発に故・野田大元帥のお父上のことが書かれています。