夢幻惑星


川又千秋『夢幻惑星』(徳間ノベルズ)

夢の作家、川又千秋による侵略SF。川又千秋は現実と境界を描くのが実にうまい作家で、本作品は『宇宙船∞号の冒険』『惑星オネイロスの伝説』(新潮文庫)、『夢魔城』などなど、夢意識レベルで僕らが夢想する世界を現実と組み合わせ、見事な作品を綴る。ストルガツキー兄弟の『ストーカー』や『スパイラル・ゾーン』、果てには山本弘『時の果てのフェブラリー』なんかを思い出す設定の中に、あっと驚く展開が待ち受ける。異体による地球の侵食劇が、実は大いなる幻影によって紡がれた壮大なタペストリーの一つでしかない、という感覚を見事に表現する。

人類は<異体>と呼ばれる存在により、自分たちの居住区を失うという未曽有の危機にさらされていた。そんな中、地球防衛軍少尉だった矢島は、領域からやってきた<擬体>との戦いで追い詰められ、領域に足を踏み入れることになる。そして彼が生還したのは、なんと自分の婚約者のもとだった。領域からどのように生還したのかがわからないまま、彼は再び任務に戻るのだが、彼には実は大きな使命が待ち受けていたのだった!

前半は『時の果てのフェブラリー』や神林長平のテイストが強い。読み終えて感じたのは現実と無意識レベルでの物語の位相が神林長平に似ているなぁと感じた部分はある。しかしながらこの作品での川又千秋の場合は、ひとひねりひねっているところが素晴らしい。矢島の帰還による、異体との関係の変化は、ストーカーでの<ゾーン>の影響を受ける人間的でもある。しかしながら実は異体の目的がよりマクロ的な視点からのものであった、というのがある種グレック・ベアの『ブラッド・ミュージック』的である。つまり、人間の進化の方向性というのを川又千秋の場合、内宇宙に求めているあたりは、バラード的である。たとえ外部からの侵略者だとはいえ、決定するのは我々の心という流れは、実にユニークな物語の提示だと僕は感じた。ただノベルズという制約のせいで、少し尻切れトンボになっている気もしたので、もう少し長くてもよいかなーと思ったり。<夢>を扱う川又千秋の小説はもう少しかっちり読んで評価したいので、自宅にある氏の作品を掘り出して読んでみたい。