ライヴ・ガールズ

レイ・ガートン『ライヴ・ガールズ』(文春文庫)

先日本を整理していて、出てきた。帯つきをようやく入手し(なのでダブっている)、久々にホラーを読むかと思って読んだ。やっぱりスプラッターパンクは帯つきで集めておきたいところだ(多分ついていない本もあるけど…)。ちょうどカナダに留学しているときに出ていた本なので完全に読み逃していたのだった。スプラッターパンクで出ていた本って今全滅なのが残念なわけで、あの当時のホラーブームは一体なんだったんだろうか?

ジョセフ・ロック名義でも小説を出しているレイ・ガートンのエロチックホラー。帯の煽り文句はちょっと微妙(笑)だけれども、よくできた話。エロスとタナトスの対比という意味で、この作品の方向性はきれいにまとまっている。この手のホラーで、血まみれ度は高いのに、後味が悪くないのは多分余韻を残しているからかもしれない。捕食される側&捕食する側にあるレプリケーターダイナミクスのバランスを考えると、捕食者(=誘惑者)であるバンパイアたちの行動は至極常識的だともいえる。闇社会とのある種の共生関係が出来上がり、その結果見事な隠れ蓑を編み出す。このあたりはアン・ライス『夜明けのバンパイア』(ハヤカワ文庫NV)とも比較できて、現代を扱っているガートンは方向性は違えど、アン・ライスの嗜好と似ている面がある。吸血するという行為は他人の一部を吸い取るという意味でも、エロスが漂っている。吸血の結果、自分自身も取り込まれるという感覚もあり、本書ではかよわき人間が意志の力に逆らえず変化していく在り様も描かれている。傍観者として、自分の姉を殺されるタイムズ紙の記者ベネデクが出てくる以外は、デイヴィーのメタモルフォルゼの話だったりする。

吸血鬼小説というと、G・R・R・マーティン『フィーヴァー・ドリーム』(創元推理文庫)という傑作やたくさん小説が出ているので今さらなのだが、本書はニューヨークを舞台にしたやや大人な雰囲気の漂う小説である。いわゆる、ストリップ小屋で性行為(フェラだが)をした挙句、モノから血を吸われるというひどい(笑)吸血の仕方(その点では、最悪という言葉は当てはまっている)で、衝撃的だったのだが、あとはまっとうなストーリー展開でぐいぐいノンストップで読ませる。吸血鬼への変容の過程、防御法などさまざまな点は吸血鬼小説にある古典的な展開そのもの(吸血鬼の人間に対する見方やセレクションの在り方などは、アン・ライスのそれに似ている)なので、安心して読めたといえばそうかもしれない。友成純一などのスプラッターホラーの描写に慣れている人には、この程度の描写では微妙かもしれない。むしろ映像化しやすいという意味で、視覚的な小説だといえる。後半部の吸血鬼の落とし子たちの住まうライヴ・ガールズの地下の描写はクライヴ・バーカーを髣髴させる。そういう意味ではクライヴ・バーカーの系譜に類するホラー作家なのかもしれない。ほかの長編も読んでみたいものである。しかしながら残念なことに本書は8年前(!)の本(書かれたのは80年代)ということで、ブックオフ等でしか見かけないのが残念。女性も普通に読めるホラー小説(最悪ではない)なのです。