黄昏世界の絶対逃走

本岡冬成黄昏世界の絶対逃走』(ガガガ文庫

ディストピア(<黄昏>という憂鬱に覆われ、人々が鬱で死ぬ世界)の中で、黄昏を除去する<黄昏の君>と呼ばれる役割を担う少女と、何でも屋の青年の織りなす逃亡劇を描く。最近読んだ中では『シュガーダーク』の世界をオープンにした感じだろうか。あるいは安倍吉俊『回螺』(ワニマガジンコミックスペシャル)の世界観にも重なる部分もある。しかしながら両作品とは異なり、実体感を喪失した「虚ろ」に支配されてしまった人々を描くのではなく、黄昏病という目に見えない何かに侵食されていく世界の中で、懸命に生きようとする人々の姿を描いた作品である。

小説自体は、そんな絶望的な世界の中で、一人の少年と少女が出会うボーイミーツガールものの小説で、黄昏という静謐の中で、まるで風景に溶け込むような感覚に囚われる。書店でイラストレーターのゆーげん氏の表紙絵に惹かれて手に取った本であったこともある。実際イラストの雰囲気が物語世界にマッチしており、読書中も物語世界を味わうための手助けになってくれていた。

物語は黄昏によって浸食され、凪のように静止した世界の中で、ヒロインのメアリとフリーエージェントのカラス(このネーミングは『シュガーダーク』のカラスというキャラクターと近似していて、偶然とはいえ面白い)の想いと対話により、物語が進行する。黄昏世界の謎が徐々に明らかにされると同時に、記憶を失っていたメアリは、カラスとの触れ合いにより、記憶が戻り、上書きされていく。その意味で、カラスとメアリの二人の関係が軸となり、物語が進行し、世界のアンカーがなんなのかが明らかにされていく。過去の暗い想い出に囚われながらも、メアリの登場により変化するカラスと、記憶を失い、心が凍結しているメアリ。二人は親和力により、徐々にお互いの関係を変え、かけがえのない絶対逃走のパートナーへと変化していく。僕らもまた、こういう存在なのかもしれない、と思わせる。言葉にはしにくいのだが、夕焼けの中で溶けていくような感覚に囚われる。漫画で言うと、鷹城冴貴のカルナザル戦記ガーディアンみたいな壮大な感じかな…。世界からの逃走観を二人に重ね合わせて読んだので、とても面白く読むことができた。第四回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作。