忠誠の誓い




ラリイ・ニーヴン &ジェリイ・パーネル『忠誠の誓い』(ハヤカワ文庫SF)

もしアーコロジーの住人だったら、外部の不測の事態にどう対処するのが自然なのだろうか?

近未来のロサンゼルスの街中に建設されたテクノロジーの集大成のインテリジェントビルディング<トドス・サントス>。内部は「完全環境都市」として25万人の住人が生活する場を舞台にした、近未来サスペンス小説。<トドス・サントス>側の支配階級とロスの住人、そして環境保護者との対立を軸に、<都市>と<周縁部>との相克の姿を描いていく。本書は五十嵐太郎磯達雄『ぼくらが夢見た未来都市』(PHP新書)で紹介されていた本で、アーコロジーものの一冊として紹介している。

<トドス・サントス>とロサンゼルスの周縁都市部との対立は、<トドス・サントス>で住まう人々がエリート階級を構成し、ある種の治外法権を作り上げたことにある。これに反対した一部の人々は、厳重な警戒の中、<トドス・サントス>に潜入し、都市機能を混乱させようと、ある種の破壊工作をしようとする。<トドス・サントス>の人々は自分たちの構成員たちをある種の封建的な絆によって拘束し(そのため、「忠誠の誓い」である)、身体内部の乳突骨にはめ込まれた<ミリー>と呼ばれるホストコンピュータを経由した通信システムを持っている。完璧な生活を送っていた人たちは、<トドス・サントス>に無許可で潜入し、破壊工作を試みたロスの有力者の息子をガスによって殺害したことにより、もともと対立構造にあった周縁部と都市との関係を悪化させることになる。さらにこのと都市と周縁部との対立は移民国家アメリカにおける人種間の対立、殊更ヒスパニックと白人の間の軋轢を描いているようにも感じられる。

閉じた体系としての<トドス・サントス>の上層部における協力関係を通じて、いかに困難に対処するかを描く。登場人物が多いので、フォローアップが大変な小説で、ニックネームで名前が書かれていたりすると、誰が誰だかわからなくなるのは辟易した。また分厚いので、読み終わるのに時間がかかるだろう。その点を除いた本書の魅力は、「統治」とは何か?を問いかけていることにあるだろう。アーコロジーがある種の統治のシンボルであるために、その統治構造から排除されている人々から敵対視される流れは理解できる。周縁部であるロスとトドス・サントスがその性質上対立し、ある種の依存関係を作り上げるのは、組織の境界について考えさせる面もある。「自然な流れの発展と考えよ」というメッセージが示すように、我々の世界は一見大きく見えても、組織に属することが実は自然な流れであって、この小説はそのあたりのことを強調している面もある。ロスと<トドス・サントス>の関係はまさに陰と陽であるという理解をしておくと、より面白く読めるだろう。でも、ほかに読む本があるのならば読まないでもよい本ではある。意外とラブロマンスも多かったりするので、まさにSFサスペンスに分類されているのではないだろうか。