月ジェット作戦



小隅黎『月ジェット作戦』(金の星社

購入するまで「つきじぇっとさくせん」だと思っていたら、「むーんじぇっとさくせん」だったということを知り、大衝撃を受ける。とある古書店より、プレミア価格で購入。プレミアの額は言いたくないが、収入が増えて大人買いできるうちに買っておく本の一冊だと感じたためもある。今回はようやく、長年探していた本を入手して、読むことができて感無量。きっと幼少期に読んだら、きっとものすごい衝撃を受けたであろう。ハードSFの紹介、日本SF界で偉大な役割を果たした小隅先生のジュヴナイルSFである。我々になじみの深い「月」を舞台に、表題にあるようなあっと驚くSFアイディアには度肝を抜かれる。巻末の瀬川昌男氏がネタバレ的な解説を書いているが、このアイディアは実はありえないことではなく、本書を読んで、スケールに圧巻した。身近な存在である「月」に起こるとんでもない壮大なからくり。そしてイーガンを先取りするあるアイディアにも改めて脱帽すると同時に、小隅黎先生のヴィジョンの豊かさに改めて畏敬の念を抱きました。

本書の魅力はなんといっても、社会システムの設定がリアルであるということ。社会システムを取り扱うSFを書く小川一水さんの作品でも見られるのだが、何らかの対立軸を設定し、対立し、調和していくプロセスがきちんとある種の民主的手続きを踏んで、解決していく。世界政府と呼ばれる汎人類政府と各国政府の国粋勢力の二つが対立する世界の中で、「第六大陸」となった月にまつわるある発見と小さな事故が全人類を巻き込む大きな事件に発展していく。そこで宇宙好きの孤児であった主人公のトシオが、「少年クイズマン・チャンピオン」に同率チャンピオンに選ばれ、「世界政府派」の川原博士の講演会である出会いをすることになる。ここから物語が急展開していく。

今のグローバリゼーションでの地域主義とグローバル主義の対立を予想していたかのような設定。緊縛した空気の中で、主人公のトシオは大きな人生のターニングポイントとなる事象に巻き込まれていく。月の利用を巡って、世界政府と各国政府の対立が起こるのだが、ある種の共有地の悲劇を早期させる。そのため上部機関として存在する世界政府の管理に不満を持ち、占有権を主張する各国政府が反発する中で、月に起きたある事件がその抑止につながることになるのだが、このネタはまさにイーガン的。ただこれは人それぞれラストあたりを読んだときの衝撃は一様ではないので、ここではあくまでも「自分」がそのような印象を受けた、ということだけを述べておく。1969年に書かれた内容とはまったく感じさせない、SFの良さを前面に押し出した名作である。著者の想いが十分に生かされており、わくわく感を感じさせる、そんなSFだった。